病院・クリニックが赤字経営に陥る原因とは?黒字化する対策を解説
最終更新日:2024/04/26
公開日:2023/05/02
最近では黒字になっている企業や医療機関もある一方で、赤字の病院やクリニックが増えています。この記事では、現在の医療業界の状況を踏まえ、コスト構造や赤字に陥る落とし穴、赤字から脱出するためのポイントを徹底解説します。黒字経営に必要な対策もご紹介するため、赤字経営に陥っている、また陥りそうな院長先生は、ぜひ参考にしてください。
日本における病院経営の現状と赤字病院の割合
病院やクリニックなど、日本における医療機関の経営は年々厳しさを増しています。赤字経営に陥る病院もあることが現状です。
日本における病院経営の現状と赤字病院の割合をご紹介します。
新型コロナで赤字病院は50%超え
独立行政法人福祉医療機構が発行した「病院の経営状況について」から、新型コロナの影響による、2020年〜2021年の病院の経営状況がわかります。新型コロナによる影響で、赤字病院は50%を超えています。
国から補助金を受けた病院では、2020年から四分位がそれぞれ改善しているものの、最小値と第1四分位の幅が拡大し、一定数の病院が赤字経営に陥っているようです。二極化が進行した原因はいくつか考えられます。たとえば、「病院の経営状態について」を見ると黒字経営の病院は、コロナ患者受入確保病床の割合が高く、病床確保料を活用し柔軟に病床の運用ができたからでしょう。
出典:2021年度(令和 3 年度)病院の経営状況について|独立行政法人福祉医療機構
日本の病院は減少傾向
赤字経営の厳しさにより、日本の病院の数は減少傾向にあります。特に、総合病院などの規模の大きな医療機関の経営は厳しいようです。厚生労働省が2020年度〜2021年度にかけて実施した種類別に見た施設数の調査によると、興味深い点がわかります。
全国の医療機関の施設数は180,396施設で、前年の2020年度に比べると1,672施設増加したことがわかります。しかし、種類別にみると「病院」は8,205施設で、前年に比べ33施設の減少です。「療養病床を有する一般診療所」の数は642施設で、2020年度に比べると57施設減少しています。興味深い点として、「無床」の診療所は前年と比べると、1,814施設増加しています。
出典:医療施設調査|厚生労働省
減少する有床診療所、増加する無床診療所
一般診療所の「有床診療所」の減少は年々留まることがなく、2020年に6,303施設あった有床診療所は、2021年には6,169施設へと減少しています。134施設の減少で2%の割合を超えています。
有床の病院や診療所の施設数は減少傾向にありますが、無床の診療所の数は増加傾向です。厚生労働省の調査によると、一般診療所の中で増加傾向にあるのは「無床診療所」のみです。2020年に96,309施設あった無床診療所は、翌年の2021年には98,123施設へと増加しています。1,814施設の増加で1.9%の割合です。無床診療所が増加傾向にあり、有床診療所が減少傾向にある原因の一つに、「診療報酬の低さ」があります。有床診療所では、診療報酬が低く赤字経営になる確率が高いため、有床診療所から無床診療所に転換するケースが増えているようです。
出典:令和3(2021)年医療施設(動態)調査・病院報告の概況(医療施設調査)|厚生労働省
入院患者数は減り、外来患者数は低水準を維持
厚生労働省と一般社団法人日本医療法人協会による調査報告によると、入院患者数は減り、外来患者数は低水準を維持していることがわかります。2021年度の病院の病床利用率は76.1%で、前年度と比べると0.9ポイント減少しています。
病院の1日平均外来患者数は1,243,000人で、前年度に比べると4.2%増加しています。しかし、増加しているものの、前年度にすでに患者数の減少が続いていたため、低水準を維持していると言えるでしょう。救急車受け入れ件数、手術数は前年と比較し減少が継続しており、低水準で推移していました。
医療機関(病院・クリニック)のコスト構造
病院やクリニックの経営状況の改善のため、医療機関(病院・クリニック)のコスト構造を見てみましょう。病院やクリニック経営における主要な費用の内訳を確認することで、赤字経営に陥る危険を回避できる可能性があります。
100床あたりの主な医業費用内訳は、以下の通りです。
- 人件費
- 材料費
- 委託費
- 設備関係費
- 経費
病院やクリニック経営において最も大きな割合を占める医業費用が「人件費」です。不用意な人件費削減はスタッフの不満や離職率につながり、医療の質が低下するため注意が必要です。医療の質を担保しながら、いかにコスト削減に取り組むかが重要でしょう。
「材料費」は、病院内で使用する薬や包帯、ガーゼ、注射針などにかかる費用です。過剰に在庫を抱えたり、使用期限が切れた材料を廃棄したりすることは、経営赤字を引き起こす原因の一つです。適正な在庫量の確保のため、発注回数などを見直すことでコスト削減を実現できるでしょう。
「委託費」は、病院やクリニックが外部の業者に業務を依頼したときに生じるコストです。病床のシーツやタオル、スタッフの制服をクリーニングするリネン費などが委託費に当たります。
「設備関係費」は、病院設備を購入した際に生じる費用のことです。たとえば、MRIやCTなどの病院設備があります。
「経費」は、病院の水道代や電気代、文具などにかかる費用のことです。特に電気料金は値上がりが続いているため、コスト削減には重要な項目です。
病院が赤字経営に陥る4つの落とし穴
病院やクリニックは公的な側面があるため、経済合理性だけを追求した経営体制を取ることは難しいでしょう。しかし、病院やクリニックは慈善事業ではなく、あくまでも企業のような営利事業の一環です。そのため、各病院やクリニックは最適な対策を打ち出し、赤字経営に陥らないようにする必要があります。
病院が赤字経営に陥る原因はいくつかありますが、ここでは4つの落とし穴についてご紹介します。
- 人件費のバランス崩壊
- 病床稼働率の減少
- 国による政策
- 新型コロナウイルスの影響
人件費のバランス崩壊
病院が赤字経営に陥る原因の一つに「人件費のバランス崩壊」があります。企業と同じように売上高に占める人件費率が高ければ高いほど、病院は赤字経営に陥りやすくなります。一般的な病院の人件費にかかる比率が売上に対して50%以上であることに比べ、医薬品などの材料費の比率は20%前後、給食などの委託費にかかる比率は6%前後と、人件費にかかるコストが大きいことがわかります。人件費率が60%を超えてしまうと赤字経営に陥る可能性があるため、注意が必要です。
病床稼働率の減少
赤字経営に陥る原因に「病床の稼働率の減少」もあります。病床稼働率とは、病院やクリニック内の病床が、どれだけ使用されているかの割合のことです。病床稼働率が減少すると、本来稼働して得られるはずの収入が得られません。病院やクリニックにおける収益の60%以上が入院診療によるものだと言われています。そのため、病床稼働率が低ければ低いほど、病院やクリニックは赤字経営に陥る可能性が高くなります。
国による政策
病院やクリニックの経営が赤字に陥る原因の一つに「国による政策」も関係しています。医療費の設定や医療制度、病院やクリニック経営の現実に則さない政策が多いことが現状です。たとえば、後期高齢者医療制度などの病院経営の現場から批判を浴びる政策などがあります。現実に即した改善が求められています。
新型コロナウイルスの影響
「新型コロナウイルスの影響」も、病院やクリニックが赤字経営に陥る一つの落とし穴です。新型コロナウイルスの流行により、国内の病院の多くが赤字経営に陥りました。特に新規感染者が多い東京都は、新型コロナウイルス感染者を受け入れた病院の多くが赤字経営になったようです。2021年度の医業利益率を見ると、新型コロナウイルス感染者を受け入れていない病院は、ほぼ前年度の水準への回復が見られました。しかし、新型コロナウイルス感染者を受け入れた病院を見ると、医業利益率が減少していることが確認されています。
赤字経営から脱出!病院の経費削減の3つのポイント
企業と同じで病院やクリニックは、病院の不要な経費を削減し、収益を上げることで赤字経営から脱出し、黒字経営に転換できます。
病院の経費削減のための3つのポイントをご紹介します。赤字経営から脱出するために、ぜひ、参考にしてください。
- 人件費の最適化
- 業務の効率化
- 患者の確保と集客(集患・増患)対策
人件費の最適化
先にも述べた通り、病院の経営において人件費は大きな割合を占めています。大きな割合を占めている「人件費の最適化」を図ることは病院が赤字経営から脱出するためのポイントです。
黒字経営の病院も人件費の割合は高いですが、医療行為により発生する売上医業収益が、赤字経営の病院よりも病院スタッフ1人あたりで良い結果を得ています。赤字経営の病院は人件費のバランスが悪く、1人あたりの医業収益が下がるため赤字経営に陥ります。赤字経営から脱出するため、再度人材の需要を見直し、人件費の最適化を図ることをおすすめします。
業務の効率化
「業務の効率化」を図ることは、病院やクリニックが赤字経営から脱出するために重要です。業務が効率的に進まなければ過剰な人件費がかかるため、手間を要する業務に関しては見直しが必要です。病院やクリニックにおける業務のIT化を進めることが推奨されています。
病院内の事務業務をIT化することで、事務業務の効率化を図ることが可能になり、人件費、ランニングコスト、広告費、研究開発費、教育費などを削減できます。病院におけるIT化には、診療予約システムやオンライン診療システム、Web問診システムなどがあります。業務のIT化は人件費の削減だけでなく、新たな医業収益にもつながるでしょう。
患者の確保と集客(集患・増患)対策
人件費の最適化や業務の効率化を図ることで、病院経営の支出面での改善が期待できます。しかし、支出面だけを改善しても収入が増えなければ、赤字経営から脱出することは難しいでしょう。そのため、患者の確保と集客(集患・増患)対策が必要です。
患者の確保と集客(集患・増患)対策に重要なことは、まず患者さんに自分の病院やクリニックを知ってもらうことです。近年、インターネットやSNSで病院の情報を検索するのが当たり前になっています。そのため、Googleマップなどの地図アプリの検索で上位表示を目指すためのMEO(マップエンジン最適化)対策をしたり、SNSでの情報発信をしたりすることがおすすめです。ホームページやSNSを最大限に活用することで、病院やクリニックの知名度が高まることはもちろん、患者さんの病院やクリニックに対する信頼度も高まり、患者数の増加を期待できるでしょう。
今後の医療機関(病院・クリニック)経営に必要なこと
病院やクリニックなどの医療機関経営は年々厳しい状態に追い込まれています。安定した黒字経営をするために何が求められているのでしょうか。
今後の医療機関(病院・クリニック)経営に必要なことをいくつかご紹介します。以下の5つの事柄を考慮し、黒字経営につなげていきましょう。
- 経営状況の正確な把握
- 伝染病・感染症への対応力強化
- スタッフが離職しない環境づくり
- 地域との連携
- 適切な情報発信
経営状況の正確な把握
今後の医療機関経営に必要なことの一つに「経営状況の正確な把握」があります。病院やクリニックが安定した経営を行っていくには、現在の経営がどのような状態にあるのか、どんな対策を導入する必要があるかなどを理解しておくことが重要です。経営分析を効果的に、また効率的に行うため、ITによる分析ツールを活用しましょう。自分で分析を行おうとすると、正確な情報を得ることが難しかったり、分析結果から具体的な施策を得ることができなかったりする場合があります。しかし、分析ツールなどを利用することで、あらゆる角度から経営状況を分析することができ、問題点の正確な把握や解決策を導き出すことが可能です。
伝染病・感染症への対応力強化
新型コロナウイルス感染症は、病院やクリニック経営に大きな打撃を与えました。今後も、他の感染症が流行する可能性があるため、「伝染病・感染症への対応力強化」が求められています。伝染病・感染症への対応が十分に行われなければ、一時的に病院やクリニックを閉鎖するなど大きな影響がでてしまうでしょう。伝染病・感染症への対応力強化により、赤字経営から黒字経営へと転換していきましょう。
スタッフが離職しない環境づくり
「スタッフが離職しない環境づくり」は重要なポイントです。病院が赤字経営に陥る原因の一つにスタッフの離職があります。スタッフの離職を防ぐことができれば、本来必要のない人件費を抑え、経営を改善できます。スタッフが離職しない環境をつくるためには、福利厚生を充実させたり、人間関係で起こり得る問題を事前に回避できる形を構築することが必要です。そうすることで、スタッフはもちろん、病院やクリニックの経営者もストレスなく安心して病院経営を進めていくことができるでしょう。
地域との連携
病院やクリニックの経営において必要なことに「地域との連携」があります。地域との連携の中で、自分の病院やクリニックに求められている役割を考え、診療体制を整備することが重要です。たとえば、地域の介護施設との連携、かかりつけ医機能、入退院支援などの制度との連携があります。今後、病院やクリニックは赤字経営に陥らないため、地域との連携を図り、コスト削減や医療収益の増加を促進していきましょう。
適切な情報発信
今後の医療機関(病院・クリニック)経営に必要なことは、「適切な情報発信」です。病院やクリニックの公式ホームページを作成し、効果的に病院やクリニックの情報をユーザーや患者さんに発信していきましょう。特に、近年の新型コロナウイルス感染症の影響により、不要不急の外出制限が理由で病院やクリニックへの通院を控える患者さんが増えています。通院する前に、公式ホームページから診療時間の変更や感染拡大防止状況を確認する患者さんが多いため、公式ホームページの制作は必須です。
まとめ まずは業務効率化と人件費の最適化を
現在、赤字経営に陥っている病院やクリニックの多くは、新型コロナウイルスの影響や人件費のバランス崩壊など、さまざまな要因により赤字経営に陥っていることがわかります。赤字経営から脱出するには、現在の経営状況の正確な把握や伝染病への対応力強化などを行う必要があるでしょう。規模や地域、専門としている科を問わず再度、病院やクリニックの経営コストを見直し分析することで、赤字経営から黒字経営へと転換できます。経営にまで手が回らない場合はIT化を促進し、経営分析ツールや公式ホームページを開設することをおすすめします。
黒字経営になるよう長期的な経営戦略を導入することで、安定した経営ができる病院やクリニックを目指していきましょう。
IT化で業務を効率化
この記事では、現在の医療業界の状況を踏まえ、コスト構造や赤字に陥る落とし穴、赤字から脱出するためのポイントを徹底解説しました。
現在、医療機関(病院・クリニック)の黒字経営を促進していく上で、IT化は欠かせません。今後、病院やクリニック経営はより柔軟性がある方向へと進んでいきます。電子カルテやレセコン、経営分析ツールなど積極的に導入していくことで黒字経営へと転換していきましょう。自分の病院やクリニックにITツールを導入し、経営を安定化させるのはいかがでしょうか。
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執筆者
株式会社ITreat
Webディレクター/リーダー
大手求人情報誌のデザイナー、インハウスのWebデザイナーを数年経験。Webディレクターに転身後、Web事業を展開している上場企業を経て、2019年に株式会社ITreat入社。現在は病院・クリニック・リハビリ施設サイトのディレクションを担当。社内外のSEO対策にも従事。
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