医療現場で医師や看護師が人手不足に陥る原因とは?解決策を徹底解説
最終更新日:2024/04/26
公開日:2023/01/25
病院などの医療業界において医師や看護師の人手不足は深刻で、採用も難しい状況が続いています。経営を安定させるために人材確保は必至です。
医療現場を支える看護師の人手不足は医療サービスの提供に支障をきたすため、政府などによる働く環境の整備を目的とした対策が実施されています。
この記事では、厚生労働省のデータなどをもとに原因を分析し、医師や看護師の人手不足への対策や解決策について事例とあわせてご紹介します。人材不足で悩んでいる院長先生は、ぜひ参考にしてください。
医療現場で医師・看護師の人手不足が深刻化している現状
医療現場での医師や看護師の人手不足が深刻化している現状は、厚生労働省が発表している一般職業紹介状況(職業安定業務統計)による有効求人倍率から把握することが可能です。
有効求人倍率とは、求人数を求職者数で割って算出されるデータのことです。有効求人倍率が1より大きいと「人手不足」、1より小さいと「人余り」の状況を意味しています。看護師の有効求人倍率は、近年のデータを見ても常に2倍を記録しています。たとえば、看護師の2020年2月の有効求人倍率は2.42、2021年の有効求人倍率は2.15、2022年の有効求人倍率は2.20です。他の職種の有効求人倍率と比べても看護師の有効求人倍率は高く、看護師は需要に供給が追いついていない「人手不足」の現状が続いています。
看護師の人手不足は今後も続く見通しです。日本は少子高齢化により、15歳〜64歳までの生産年齢人口数が今後も減少する傾向にあります。そうなると、新しく看護学校へ進む人数の減少も予想されます。
医師・看護師の人手不足が起こっている5つの原因
医療現場での人手不足が起こっている原因には、需要と供給のバランスが関係しています。では、「需要が多いこと」と「供給が少ないこと」につながる、医師または看護師の人手不足が起こっている5つの原因を見てみましょう。
以下の5つの原因を挙げることが可能です。
- 離職率の高さ
- 厳しい労働環境
- 医療技術の高度化
- 責任の過多
- 新型コロナウイルス感染症の影響
離職率の高さ
医師または看護師の人手不足が起こっている原因の一つに「離職率の高さ」があります。特に看護師は離職率が高く、人材定着が難しい職業です。公益社団法人 日本看護協会の発表によると、正規雇用看護職員の離職率は11%前後で推移しており、既卒採用者の離職率は17%前後と高い傾向にあります。医療従事者として訓練を受け業務に携わっていても、離職してしまっては人手不足の問題は避けられません。
▼出典:公益社団法人日本看護協会
https://www.nurse.or.jp/
厳しい労働環境
医師または看護師の人手不足が起こっている理由に「厳しい労働環境」もあります。前述した看護師の高い離職率の原因に、勤務シフトが不規則なことがあります。夜勤勤務、早朝勤務のシフトにより生活が不規則になったり、プライベートとの両立が難くなったりするため離職する方もいます。また夜勤勤務は、基本的に看護師の配置が少なく、少人数でナースコールなどの対応を行うこともあるでしょう。容体急変や緊急患者の受け入れがあると、休憩時間があまり取れないこともあります。
医療技術の高度化
近年の医療技術の発達により、医療現場では医療技術の高度化に対応できる医師や看護師が求められています。特に、少子高齢化の影響から、急性期医療や介護医療、訪問看護の分野での看護師の需要が高まっている状況です。また、患者さんとその家族の医療に対する意識も近年高まりを見せる傾向にあり、安全な医療体制を求める声が増加しています。医療ミスの少ない安全な医療を提供するために、一つの病床あたりの看護師数を増やすことが必要です。「医療技術の高度化」による看護師の需要の増加が、医師または看護師の人手不足の原因の一つに挙げられます。
責任の過多
医療現場での人材不足の原因の一つに「責任の過多」があります。看護師が1日に行う業務は多く、業務内容も広範囲に及びます。たとえば、医師が行う診療のサポート、患者さんの看護、看護記録の作成や事務処理などです。准看護師は自らの判断で行動することが許されていないため、正看護師は准看護師のサポートも行わなければなりません。また看護師は、患者さんの健康や命にかかわることが多いため、ストレスを抱えることも多いでしょう。患者さんへの薬剤投与、看護ケアなどは小さいミスも許されないのが現状です。業務量の過多とともに責任の過多も看護師の離職の原因となり、医療現場の人手不足につながります。
新型コロナウイルス感染症の影響
「新型コロナウイルス感染症の影響」も医療現場での人手不足が起こっている原因の一つです。近年の新型コロナウイルスの流行によって、国内の医療需要が爆発的に拡大しました。1病院あたりで看護を供給できる看護師の数が不足しています。また、新型コロナウイルスのワクチン接種の担い手が、看護師を含めた多くの医療従事者にも広がったことも、看護師の人手不足の原因に寄与しているでしょう。
医療現場で看護師の採用が難しい理由
医療現場では、特に看護師の採用が難しい状況ですが看護師の免許を取得する人は年々増加傾向にあります。
看護師の資格を所有する人が増えている一方、医療現場での看護師の人手不足が続くのは、どうしてでしょうか。医療現場での看護師の採用が難しい理由について見てみましょう。
- 少子高齢化の影響
- 厳しい労働環境
医療現場で看護師の採用が難しい理由の一つに「少子高齢化の影響」があります。日本における高齢者の割合は年々増加しています。今後も、高齢者の割合は増えていくことが予想されます。看護師の免許取得者が増えても、需要と供給のバランスが取れず、看護師の人手不足は続く見込みです。
「厳しい労働環境」も理由の一つです。看護師の業務の問題点は、時間外労働が多いことや、勤務シフトが不規則であること、休日出勤などです。人手不足が労働環境をより厳しくするため悪循環に陥ります。
医師や看護師の人手不足による弊害
医療現場での人手不足がこのまま続くと、どのような弊害が起こるのでしょうか。医療現場で医師や看護師の人手不足が続いた場合に起こる弊害について見てみましょう。
医療現場での医師や看護師の人手不足が続いた場合、以下の3つの弊害が考えられます。
- 医療サービスの質の低下
- 離職者の増加
- キャリアアップ養成の難化
医師や看護師が病院で不足すると起こる弊害の一つは「医療サービスの質の低下」です。病床あたりの医師や看護師数は、患者さんの安全に影響します。医師や看護師が不足すると、病床あたりの医師や看護師の数も減少し、医療サービスの質の低下につながります。看護師の人手不足は、医療ミスが起こりやすい医療現場を作り出す原因となり、患者さんに安全な医療を提供できなくなるでしょう。
他にも「離職者の増加」が挙げられます。医師や看護師の人手不足の医療現場は、働いているスタッフ1人あたりにかかる負担も大きくなります。働いている環境が悪化し、疲労やストレスが大きくなると、離職するスタッフが出てきやすくなるでしょう。
病院から医師や看護師が不足すると各業務が忙しくなり、キャリアアップのための勉強時間が取りにくくなる傾向にあります。そうなると、経験の浅い医師や看護師は、経験が浅いにもかかわらず責任ある役職に付けられたり、希望部署へのキャリアアップに悪影響を及ぼしたりするでしょう。経験の浅い状態で仕事を続けるのは危険ですし、職場全体での医療サービスの質の低下にもつながります。
看護師の人手不足で注目されている潜在看護師
看護師の人手不足が起きている状況の中、潜在看護師が注目されています。潜在看護師とは、看護師免許を持っている64歳以下の、現職の看護師として働いていない人のことです。
厚生労働省のデータによると、看護師資格保有者の中では潜在看護師が多くの割合を占めています。2012年時点での潜在看護師の数は71万人です。この数は、看護師資格保有者のおよそ3分の1が看護師資格を保有しているが、看護師として勤務していない状態であることを示しています。
看護師資格は資格取得後の定期更新が不要で、一度資格を取得すると生涯有効となります。潜在看護師の中には、専業主婦の方もいれば、医療現場以外の分野での仕事に携わっている方、看護の知識を活かして、別の職種として福祉施設などで働いている方などさまざまです。多くの潜在看護師は、現職の看護師としては働いていないとはいえ、医療に関する知識と実務経験を持っています。長期育成が必要な新人看護師よりも即戦力としての活躍が期待されています。
潜在看護師はコロナ禍においても注目を集めました。コロナ禍以前から潜在看護師への復職支援は行われていましたが、コロナ禍以降、より大々的に行われている状況です。たとえば、テレビ、インターネットを利用した復職支援の情報提供が積極的に行われ、潜在看護師が復職を視野に入れる状況を作り出しています。2022年現在では、PCR検査、ワクチン接種にかかわる業務や看護業務などにより、潜在看護師が復職できる機会は数多く用意されています。各都道府県の看護協会では、長らくブランクのある潜在看護師に対して、積極的に採血や点滴などの研修も行っています。
医師や看護師の人手不足への対策・解決策
日本の医療現場において医師や看護師の人手不足は深刻です。医師や看護師の人手不足を解決するための、具体的な対策や解決策をご紹介します。
具体的に以下の5つの対策および解決策があります。
- 賃金・手当の充実
- 福利厚生などによる労働環境の整備
- キャリアアップの支援体制の整備
- IT化による業務の効率化
- スタッフのライフスタイルに合わせたサポート体制
賃金・手当の充実
「賃金・手当の充実」は、スタッフの不満解消に寄与します。夜勤手当や残業手当を増やすことによってスタッフの収入が増えれば、医師や看護師のモチベーションの向上につながるでしょう。しかし、病院経営において給与を上げることが難しい病院もあります。
最近では新型コロナウイルス感染症拡大防止を目的に、厚生労働省からの補助金なども検討されているようです。
▼医療機関・薬局等における感染拡大防止等の支援|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/kansenkakudaiboushi_shien.html
福利厚生などによる労働環境の整備
医師や看護師の人手不足への対策および解決策には「福利厚生などによる労働環境の整備」もあります。
人手不足を解消するには、まず雇い主の病院側から、労働環境の改善や福利厚生の見直しを行うことが不可欠です。福利厚生の充実は、離職率低下につながり医療現場での人手不足解消に大きく貢献するでしょう。
たとえば、病院内の保育所設置や診療費用の補助制度、休職中の潜在看護師への支援制度などがあります。
キャリアアップの支援体制の整備
「キャリアアップの支援体制の整備」も、医師や看護師の人手不足対策に欠かせません。
医師や看護師の業務は激務なことから、ベテラン医師や看護師が新人を育成することが難しい状況です。人手不足の中、業務を遂行する新人の中には、より責任が重くなるにつれ不安を感じてくるスタッフもいることでしょう。キャリアアップの支援体制を設けることは、病院全体の医療サービスの質の向上につなげるためにも重要です。
代表的な対策としては、認定看護師や専門看護師の資格取得支援、キャリア養成支援制度の導入があります。キャリアアップの場を設けることは、医師や看護師のモチベーションアップにもつながります。
IT化による業務の効率化
人手不足が原因で、看護師にかかる業務の負担は増大しています。そこで積極的に医療現場をIT化していくことによって、業務の大幅な効率化が可能です。
たとえば、紙カルテから電子カルテに切り替えることで業務量を大幅に削減できます。患者さんのデータをデジタル化することで、入力ミスを減少することが可能です。また医療ロボットやAIの活用により、スタッフの業務負担が軽減できれば離職率も低下し、人手不足解消につながっていくでしょう。
スタッフのライフスタイルに合わせたサポート体制
結婚や妊娠、出産、子育てなどのライフステージの変化にともない離職する医師や看護師も少なくありません。そのため、「スタッフのライフスタイルに合わせたサポート体制」が医師や看護師の人手不足対策に必要です。
たとえば、勤務形態を見直し夜勤を免除することや、時短勤務を採用すること、有給休暇や看護休暇を取得しやすい環境作りなどが助けになるでしょう。病院全体でスタッフの育児支援に取り組めば、安心して働ける環境が作り出され、ライフスタイルが変わっても離職せずに働き続けることが可能です。
働く環境の整備を目的とした事例
医師や看護師の人手不足対策を目的に働く環境を整備した、いくつかの事例をご紹介します。病院やクリニックなどで、人手不足で悩んでいる院長先生は、ぜひ参考にしてください。
医療現場をデジタル化することで、業務効率化に成功した事例がいくつか存在します。
たとえば、名古屋大学医学部附属病院は、事務部門にRPAを導入することで業務の効率化に成功しました。
RPAとは、「Robotic Process Automation」の略語で、パソコンで行っている事務作業を自動化できるソフトウェアロボット技術のことです。RPAで医療事務の業務効率化を図ることで、「会議開催案内メール送付業務」、「医師勤務時間計算業務」、「患者数統計データ作業業務」などの定型業務の自動化に成功しています。
RPAによる業務効率化は、スタッフの余力時間の確保につながり、より付加価値の高い業務への移行が実現しました。病院内にRPAを導入することで、合計約9,800時間の業務効率化が見込まれています。
訪問介護事業を行っているオムソーリ訪問看護リハビリステーションは、座学やOJT(現地実習)などに力を入れて、スタッフの働く環境の整備に努めています。
たとえば、取り組みの一つは「訪問介護基礎研修制度」です。訪問介護基礎研修制度とは、看護学校の新卒生のための、また結婚や出産などでブランクがあるスタッフが安心して復職できるようにするための、基礎的な学習コースのことです。eラーニングによる遠隔でのコースの受講も可能です。
また、結婚や出産などのライフステージの変化を期に退職し、現在は休職中の「潜在看護師」が復職しやすいようにするためのサポートも充実しています。子育て中の潜在看護師のために、パートタイムで働ける環境を整えています。
東京都多摩地区にある徳洲会東京西徳洲会病院の看護部が取り組んでいる環境整備は、スタッフとその家族のための総合的な福利厚生制度です。
たとえば、徳洲会病院で受診した月額3,000円以上の診療費用は、申請により後日、全額給付されます。また、病院内のすべてのスタッフは、人間ドックを無料で受診することが可能です。スタッフの二親等までの家族も、日帰りドックまたは脳ドックを、10,000円の負担金で受診できます。
まとめ
この記事では、厚生労働省から公開されているデータなどをもとに、医師や看護師の人手不足の原因を分析してきました。また、医師や看護師の人手不足への対策や解決策についても事例とともにご紹介しました。
看護師の需要と供給のバランスが取れていないことが看護師の人手不足の原因です。看護師の離職率が高く供給が低下している一方で、看護師の需要は高まっています。
看護師が職場に定着するには、各種手当を充実させることや、スタッフのライフスタイルに合わせた職場環境が必要です。医療現場のIT化もスタッフ一人あたりの負担を軽減することにもつながるためおすすめです。
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執筆者
株式会社ITreat
Webディレクター/サブリーダー
化粧品販売、制作会社、建設会社を経て2020年に株式会社ITreatへ入社。未経験からWebディレクターへ転身。現在は、病院・クリニックや一般企業のサイト制作におけるディレクション業務をはじめ、クライアントの採用業務のサポートなどを担当。
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