困った患者さん(モンスターペイシェント)の特徴と対処・対策
最終更新日:2024/04/26
公開日:2022/04/22
困った患者さん(モンスターペイシェント)の心理とは
医療機関にとって患者さんは大切な存在ですが、なかには困った問題の種となる患者さんもいます。そのような困った患者さんや手間のかかる患者さんを「モンスターペイシェント」といいます。モンスターペイシェントは、医師や医療機関のスタッフに対して繰り返し無理な要求をしたり、暴力や暴言を繰り返し行ったりします。
モンスターペイシェントは、受診のはじめから困った行動を取るとは限りません。はじめは、純粋に自分の病気や症状を治してほしいと思い来院します。しかし、ある日を境に、医療機関や医師、またスタッフを敵対視して問題となる行動を取ってしまいます。
では、なぜ病気や症状を治してほしいと思って来院した患者さんが突然「モンスターペイシェント」になってしまうのでしょうか。
困った患者さん(モンスターペイシェント)の特徴・クレーム事例
困った患者さんや手間のかかる患者さん(モンスターペイシェント)とは、一種のクレーマーです。例えば、患者さんが歯科医師または歯科衛生士に期待していることと、実際に歯科医師または歯科衛生士が患者さんに行えることには、ギャップがある場合があります。そのようなギャップをそのままに治療を進め、認識の違いが表面化すると、患者さんは、その医療機関に対して強い不満を抱くこととなり問題が発生。面倒な患者さんを通り越し、他の患者さんの迷惑となるだけでなく治療を妨げたり、最終的には医療機関で働くスタッフまたは医師たちの精神状態にも悪い影響を及ぼすケースもあります。
例えば、ある病院での出来事を考えてみましょう。急患で深夜に母親と体調不良の子どもが飛び込んできました。子どもの体温は37度で他に異常は見当たりません。母親は、その日の当直医である脳外科医を攻め立てます。「小児科の先生をお願いします!脳外科の先生で何がわかるの?薬を出しなさいよ!うちの子に何かあったらどうするの!訴えますよ!小児科の先生を今すぐ電話で呼んでください!」当直医は、お子さんの病状に問題がないこと、薬局が深夜なので閉まっていて薬は最小限しか出せないこと、そして小児科の医師の診察を希望するならば診療時間内に来ることを敬意を込めて伝えますが、母親である女性は興奮していて大声は止まりません。その時、重症患者が救急車で運ばれてきます。当直医は、そちらの治療に当たるために席を外します。その後、母親である女性は当直医から看護師に矛先を変え再度責め立て始めます。母親である女性は、しばらく看護師を責め立てた後、冷静さを取り戻し家に帰っていきました。
このような場面は、多くの医療現場で見られるのではないでしょうか。
困った患者さん(モンスターペイシェント)の特徴
病院または歯科医院の受付スタッフの対応に異常な反応を示し、ちょっとしたことでイライラする患者さんがいます。受付スタッフは、そのような患者さんへの対応に困ってしまいます。では、手間のかかる患者さんである「モンスターペイシェント」の特徴にはどのようなものがあるのでしょうか。
典型的な困った患者さんや手間のかかる患者さん(モンスターペイシェント)の特徴にはいろいろあります。
- 表情が硬く疑り深い
- プライドが高そう
- 理屈っぽい
- こちらの意見に同意してくれない
- 鼻で笑ったり、嫌みを言う
- ささいなことで怒る
これらのタイプに当てはまる患者さんがいれば気をつける必要があります。では、これらの特徴を示す3つの事例を見ていきましょう。
特別扱いを要求する患者さん
困った患者さんや手間のかかる患者さん(モンスターペイシェント)のなかには、自分を特別扱いしてほしい患者さんがいます。そのような患者さんは、レストランの常連客のように病院や歯科医院の収益に貢献していると思い込み、飛び込みでの検査や他の患者さんの診察の順番を飛ばして治療、診察または検査を求めてきます。病院の院長先生がはっきり断り、要求に答えられないことを伝えると、その指示に従ってくれる患者さんもいますが、それでも数回同じことを繰り返さなければなりません。患者さんは、自分の要求が通らないとわかると、自然と受診しなくなります。
しかし、特別扱いを要求する患者さんのなかには、納得せずにさらに暴走していく患者さんもいます。病院や歯科医院など医療機関側に謝罪を求めたり、保険のしくみや医師・看護師の役割、または病院スタッフの対応の仕方にクレームを出したりします。
話を聞いてほしい患者さん
さらに、面倒な患者さんや手間のかかる患者さん(モンスターペイシェント)のなかには、話を聞いてほしい、つまり極端にかまってほしい患者さんがいます。このような患者さんの多くは、新規開業するクリニックに好んで現れます。理由は、すでに患者さんをたくさん抱えているクリニックや病院では自分の話を聞いてもらう時間がないからです。このような患者さんは、性格がしつこく、話が長いのが特徴です。
病院または歯医者のスタッフ、そして医師や歯科医師たちは、患者さんの話を聞くのも治療の一環としているので見放さないように話を聞いていますが、患者さんの要望は徐々に増えていきます。この場合、患者さんに時間を指定し、例えば他の患者さんが少ない時間帯に受診してもらうように勧めると、興味深いことに必ず指定された時間に受診するようになります。このような患者さんは、とにかく自分の話を聞いてほしいのです。
治療費を支払わない患者さん
診察代・治療費をなかなか支払わない患者さんもいます。この問題は、診療報酬の計算違いなどで差額が出た場合や、検査などが追加されその費用が後日請求となった場合などに起こります。
医療機関側の事務的なミスで、自費診療の治療を保険で請求したために後日修正会計が出る場合があります。困った患者さんの中には、再三電話で説明しても事務スタッフの説明では納得できず、院長先生や立場のある医師に説明および謝罪を求め、ようやく納得して診療費を払ってくれます。もちろん修正会計が発生しないのが望ましいですが、もし出てしまった場合は、できる限り早急にお金を回収することが重要です。
医師・看護師と患者さん間の誤解がクレームを招いてしまう
医師や看護師と患者さんの間に誤解が生じることはよくあることです。問題なのは、その誤解をそのまま放置しておくことです。生じた誤解をそのまま放置して治療を進めると、何か問題が起きた時、患者さんは医師や看護師に対して強い不満を抱き、不信感を募らせ、その誤解が強いクレームを招いてしまうことになります。
では、患者さんが持つ誤解には、どのようなものがあるのでしょうか。
例えば、「治療を行えば必ず治る」という誤解があります。患者さんは、病院が病気を治すところで医師や看護師は病気を治すために働いていると期待します。ですから、患者さんは自分の症状が良くならなかったりすると「医師は手を抜いている」とか「医療ミスを犯している」などと考えてしまいます。
「必ず確定診断が出る」という誤解もあります。患者さんのなかには、現代医学で解明できないものはないと思い込んでいる方もいます。ですから、検査をしても症状の原因が分からないと医師に不信感を抱くようになり、結果クレームに繋がります。
そして、「治療方針は一つだけ」という誤解もあります。患者さんによっては、一つの診断に対するベストな治療法は一つだけと思い込んでいる方もいます。ですから、複数の医師が異なった治療方針を提案すると、不信感から患者さん自身が正しいと思う医師以外の医師を間違っていると判断してしまいます。
また、患者さんの中には「医師任せ」の患者さんもいます。専門家である医師だからという理由で「自分よりも自分の体や病気のことを把握してくれている」という考えを持った患者さんです。そのため、治療のリスクなどについて自身で判断しないまま治療方針に同意。治療後にリスクが表面化したときに、「医師の判断が間違っていた」などと考えてしまいます。
このように、医師または看護師と患者さんの間に誤解が生じる可能性があります。そして、その誤解は、患者さんからのクレームとなって表れてきます。
医師・看護師の対応が患者さんをクレーマー化させてしまう
患者さんを「モンスターペイシェント」にしてしまう原因は、病院の経営者側の不手際だけが原因となるのではなく、勤務医や看護師・コメディカル・受付スタッフの対応の仕方も問題を招く原因となります。では、どのような対応の仕方が問題を招く可能性があるのでしょうか。
例えば、問題を招く対応の中に「患者さんの話を聞かない」というものがあります。医師のなかには、自分は専門家なのだから全て任せてくれればいいという考えから、患者さんの話を全く聞かないということがあります。そうなると、患者さんは不安になり、その不安はだんだんと強くなっていき、最終的にクレームとなって表れます。
そして、患者さんをクレーマー化させてしまう対応のなかに「患者さんに寄り添うことができない」ということもあります。患者さんは、自分の症状や痛みを治してもらうために病院へ来ます。クレームを言いたくて病院に来る人はほとんどいません。しかし、医師が患者さんに「治療したのだから痛みが残っているはずがない」とか「症状を気にしすぎ」などと言って患者さんに共感することを怠ると、患者さんは自分の症状を理解してくれていないと思い、不安からクレームへと繋がります。
さらに、問題が起きたときの医療機関の対応のなかに、問題解決において「過程よりも結果重視」の対応で、患者さんをクレーマー化させてしまうことがあります。問題が起きたときに、医師が「謝罪すればいい」とか「お金を払えばいい」と考えて、患者さんの痛み、または辛い思いをしているということに共感しないで「結果」だけを追い求めてしまうのならば、患者さんはクレーマー化してしまいます。
このように、患者さんをクレーマー化させてしまう理由は幾つかあります。しかし、患者さんがなぜクレームを出すのかを理解していれば、クレーム発生を最小限に抑えることができるはずです。
困った患者さん(モンスターペイシェント)への対処法(クレーム対応)
患者さんがクレーマー化してモンスターペイシェントになってしまったら、どのように対処できるのでしょうか。二つの対処法を考えてみましょう。
反論や説得をしない
患者さんからのクレームがあった場合、そのクレームの内容にもよりますが、「反論」や「説得」をしてしまうと問題がさらに大きくなる可能性があります。反論してしまうと、患者さんは医師に対して敵対心を抱くようになり対立関係が生まれ、その対立関係を解くのは非常に困難です。
反論や説得ではなく、まずは患者さんの言いたいことをよく聞くことが大切です。患者さんの話をよく聞くことで、患者さん自身が何にクレームを出しているのかを整理することができます。患者さんがクレーマー化してモンスターペイシェントになってしまう原因は、患者さん自身が何に対してクレームを出しているのかが自分でもよくわかっていないことがあります。原因がわかっていないのでモヤモヤ感が募り、さらに不安になって怒りが増していく現象に陥ってしまいます。医師の話を聞くという姿勢が患者さんに伝われば、患者さんも落ち着きを取り戻すことができます。
話を聞くことに徹する
医師は患者さんからクレームを付けられていると感じると反論したくなるかもしれません。しかし、反論するのではなく患者さんの気持ちを一度受け入れることが大切です。患者さんは、クレームを出す際、決まって同じことを言う傾向があります。その繰り返し言う事柄が、患者さんが一番気になる関心事である場合が多いです。ですから、まずは、傾聴に徹することが大切です。
患者さんが思っていることは「助けてください」ということです。クレームはある意味で「心からのSOS」です。患者さんは、自分ではどうすることもできない状況に遭遇し、不安になりモンスターペイシェント化するのです。ですから、医師や看護師に限らず患者さんと接するスタッフは「なぜ患者さんはそのような態度を取るのだろうか」と表面化していない要素を見るようにすることが大切です。患者さんも、たとえ少しの時間でも自分の話を聞いてくれたと感じることができれば怒りの感情は静まります。
「D言葉」を「S言葉」に変換する
一般常識からすれば、困った患者さん(モンスターペイシェント)はまさに常識はずれな人です。しかし、患者さんからすれば、自分は「困っている」のだから助けてほしいだけなのです。ですから、ちょっとしたコミュニケーションの技術を利用することで問題を回避することが可能です。
例えば、「D言葉」を「S言葉」に変換すれば患者さんの余計な怒りを買うことを避けられます。「D言葉」、つまり「ですから」や「だって」、そして「でも」と言ったダ行で始まる言葉を、「S言葉」、つまり「失礼しました」や「承知しました」、また「すみません」というサ行で始まる言葉に言い換えます。そうすることで相手の怒りを静め、問題を大きくするという危険を避けることが可能となります。
クレーム発生時の初期対応の流れと対策・備え
クレームが実際に発生した時に取る対応の流れと対策、そして備えについて考えてみましょう。
対応をその場で済ませない
患者さんからクレームが出た場合、クレームを受けたスタッフは、対応をその場で済ませようとしてはなりません。問題において責任のないスタッフが患者さんに謝罪したとしても、患者さんの気持ちが収まるとは限りません。
クレームを受けたスタッフは対応をその場で済ませるのではなく、患者さんの話を聞くために、できれば他の患者さんの目が届かない別室に移動しましょう。別室に移動してもうことはとても重要です。なぜなら、他の患者さんへの迷惑を回避できるだけでなく、患者さんのクレームの動機を判断しやすくなるからです。もし、患者さんが別室への移動を拒否するならば、患者さんは自分の話を聞いてもらいたいのではなく、周りにいる他の患者さんたちに自分の不満を聞かせることが目的である場合があるからです。
さらに、電話で患者さんからのクレームを受けた場合、その電話を受けたスタッフはその場で対応を済ませるのではなく、患者さんの話をよく聞いたうえで「折り返しご連絡致します」と言って一度電話を切るようにしましょう。
その後、患者さんからクレームが出たことを医師に伝え、どのように対応するかを判断。折返し患者さんに連絡し、来院してもらう日時を決め、それをスタッフ間で共有してください。事前にこんな患者さんが来ると知っていれば、仮に予定していた日時に来院しなくても、不手際を避けることができるでしょう。
ヒアリング
別室に移動してもらった後、または電話対応にて後日来院してもらった後は、ヒアリングを行いましょう。ヒアリングは、医師が行なうのではなく他の病院スタッフが行うと良いでしょう。なぜなら、そのクレームの焦点である医師が対応すれば、患者さんの怒りはさらにエスカレートしていき問題は大きくなるからです。第三者である病院スタッフがヒアリングに応じれば、患者さんも冷静になることが可能です。
この時に注意したい点は、病院スタッフがヒアリングに徹するということです。前述した通りクレームに対して反論や説得をしたくなるのは自然な反応ですが、反論したところで問題は大きくなるだけです。ですから、病院スタッフはヒアリングに徹し、患者さんが何に対して不満を持っているのか整理してあげることが大切です。患者さんは、自分の気持ちが整理できれば不安も解消し、モンスターペイシェントになってしまうことを避けられるはずです。
弁護士に相談
ヒアリングを行っても問題が解決しない場合もあります。そんな場合は、弁護士への相談も検討してみてはどうでしょうか。
弁護士を間に入れることで患者さんの気持ちをさらに過剰反応させてしまうのではないかと心配する医師や病院スタッフもいますが、モンスターペイシェント化している患者さんであっても、第三者である弁護士に対しては無理な要求をすることはほとんどない傾向があります。ただし、患者さんに弁護士の介入を説明する場合、病院スタッフは患者さんに対する「伝え方」に配慮しなければなりません。患者さんの気持ちが過剰に反応するのを避けるためです。例えば、「適切に、また誠意をもって対応させていただきたいので、今後の話し合いは専門家である弁護士に依頼させていただきたいと思います」などと伝えましょう。伝え方に配慮すれば、患者さんも冷静になって話し合いに応じてくれるようになります。
防犯カメラの設置
クレーム発生時の備えとして、防犯カメラを設置することもおすすめします。防犯カメラを設置するメリットについて少し考えてみましょう。
防犯カメラを設置することのメリットは「事件が起こっていないことをを証明できる」という点です。防犯カメラの本来の用途は、事件が起こった証拠を記録するためですが、病院や診療室に設置されている防犯カメラは、患者さんからのいわれのないクレームから病院スタッフを守ることもできます。医師や病院スタッフは、実際には何もクレームに値するようなことは起こっていないと確信していても、患者さんのクレームを無視することはできません。防犯カメラを設置しておけば、クレーム発生後にビデオを確認し情報を得ることができ、患者さんの主張が正しいのかを客観的に確認することができます。患者さんの中には、勘違いや思い込みでクレームを出す場合があります。防犯カメラで証拠動画を記録しておくことによって、医師または病院スタッフ、そして患者さんの両者にとって最も良い問題解決法を得る結果となることでしょう。
まとめ 病院とスタッフを守るために
病院などの医療機関ではたらいていると、ささいなことで患者さんからクレームを付けられ、強い恨みにまで発展することがあります。しかし患者さんが、困った患者さんや手間のかかる患者さん(モンスターペイシェント)になってしまうのには理由があることや、医師や病院スタッフの対応が面倒な患者さん(モンスターペイシェント)を生み出すということも理解できました。患者さんがクレームを出す理由を理解した上で日々クレーム対応を行っていけば、モンスターペイシェントの発生を防ぐことができます。
医療機関には、医師や看護師・病院スタッフに対する安全義務、そして患者さんの安全を守るという責任があります。大切な医師や病院スタッフ、また患者さんを守るための対策を進めていくことが重要です。
防犯カメラを設置することで、患者さんはもちろん、医師や病院スタッフを安心させることができるでしょう。病院や診療室に防犯カメラを設置していない病院または歯科医院のご関係者様は、ぜひ弊社のトラブル予防のための法律相談と防犯カメラのサービスをご検討ください。
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執筆者
株式会社ITreat
執行役員・Webディレクター
大手人材系企業で医療業界のキャリアコンサルタントとして勤務したのち、ITベンチャーへ転身。現在は株式会社ITreatの執行役員として、主に病院やクリニックのWebサイト制作、採用課題の解決、SEOコンサルティングを行う。キャッチコピーは「関わるすべての方とのWin-Winを作る」。
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